『銀魂』 二次小説 「泣く女を黙らせるには甘いもので口を塞げ」 【銀魂SS】

六股篇完結記念(!?)に、銀さちSSをUP。不祥事の件の後、モヤモヤする銀さんは。コミックス派の方はご注意を。未刊行分のネタバレ含みます。OKな方はどうぞ!


泣く女を黙らせるには甘いもので口を塞げ



「あっダーリン!こんな所で偶然ね!」

“武士は食わねど甘味処で高楊枝”といった風体で、団子屋帰りの坂田銀時が竹串を咥えて街をぶらついていると、編み笠に手甲を着けた旅装束の女が親しげに話しかけてきた。

いつもの忍び装束なら“始末屋さっちゃん”猿飛あやめと一目でわかるところだが、今日は薄紫の髪を後ろにまとめ、町娘のなりをしている。

声をかけられなければ笠の下に隠れた顔も気にせず素通りしただろう。いや、たとえ彼女とわかっても銀時は知らぬふりを通した。
特に、今日は。

「もぉぉ~ダーリンったら、相変わらず冷たいのねっ」

嬉々として銀時の隣に並び腕を絡ませようとする女から素早く身をかわし、銀時はあやめを一瞥した。

「誰だテメー。人を馴れ馴れしくダーリンなんて呼ぶんじゃねェ」
「銀さん…?」

銀時はそう言い捨てると、あやめを無視して街中を行き過ぎる。
いつもの彼ではない。あやめは直感的に察した。

銀時からの罵詈雑言には慣れていた。彼の家へ不法侵入したり、電柱の陰から後ろ姿を見護ったり、時にはサンタのプレゼントやテレビに紛れて銀時に近付くたびに、ストーカーだの変態女だのメス豚だのと罵られてきた。それが却ってあやめを興奮させるのだが、今日の銀時は様子が違う。

押し殺した声、冷たい目。
怒っている。それも、相当。

いつもいつも銀時を一途に追いかけているあやめだから、わかる。
普段の銀時ならば感情もあらわに、大げさな程に喚いてみせる。
なんだかんだと疎ましげながら、相手をしてくれるのだ。

それなのに。
まるで、知らない女を見るような目だった。

●○●


あの団子屋の帰りからずっと、女が自分の後ろにいるのには気付いていた。だが敢えて銀時は無関心でいる。洞爺湖を女の頭上にクリーンヒットさせるなぞ朝飯前だが、“居ない者”に木刀を刺すことは出来ない。

珍しいことに部屋への不法侵入はない。屋根裏へ潜んでいる様子もない。女の仕事が忙しいのか、或いはあの日、茶屋帰りの凄味が効いたのか、定かではないが。

ただ、銀時の態度をいち早く察した点は、さすがと言うべきか。
忍びだけに勘がいい。後ろの女は確かに戸惑うように息を殺している。
それが余計に銀時を苛立たせもし、自己嫌悪に陥らせもした。

「…大人げなかったよな」
「え?なに銀さん、朝から開店前のパチンコ屋に並ぶのが大人げない!?」
「なんでもねーよ。長谷川さんよォ、新台入替えん時は様子見のがいんじゃねーの」
「いやココは出るって!常連のパチプロ情報なんだって!」
「マジでか。パチプロって新八のプロのことじゃねーだろーな」
「新八くんのプロって何!?メガネ?メガネのプロってこと!?」
「うるせー黙れアマチュアのグラサン。しっかり前向いて並んどけや」
「ひどいよ銀さん、俺達、ハマった仲じゃねーか」
「言うなァァァ!!!それを言うなァァァ!!!」

なぜか頬を染める長谷川と、それを全身で否定する銀時だった。

入店し台につくが、いつもの通り全く出ない。途中、銀時と長谷川の間に、すっ、と山盛りの玉が盛られた箱が二つ置かれていた。

驚きながらも長谷川は狂喜し、「パチンコの神様」からのプレゼントだと信じて鼻歌まじりに玉を台へ注ぎ込んでいたが、それもあっという間にすった。

「なにが『パチンコの神様』だっつーの。紅白でもねらう気か」

銀時はその得体の知れない玉にはいっさい手を着けずに唸る。
パチンコ屋の店員の中に、薄紫の髪を垂らした背中が混じっていたからだ。

大した収穫も無しにパチンコ店で長谷川と別れる。昼下がりの冬は息も白く、財布の中身も相まって寒々しい。

所在なく街に出れば、やはり女はついてくる。銀時は忌々しくため息をつき、猥雑な繁華街を行く。女の追跡を巻けるとは思わないが、人混みに紛れて忍びを手こずらせるのも一興だ。

「北斗心軒」でラーメン、甘味屋でクリームあんみつをツケで食い、両方の店主から嫌な顔をされつつ空腹を満たす。その間も女…猿飛あやめは、ひっそりと様子を伺っている。「張り込みのデカか」と、銀時は独り言つ。

そんな追走劇は一週間ほど続いた。
いつもの銀時なら痺れを切らして「このストーカーM豚がァァァ!!!」と蹴りの一発も入れるが、だんまりを決め込んでいる。

あやめの存在を無視し続ける銀時に、新八、神楽も眉をひそめた。

「銀ちゃん、この辺でさっちゃんに気付いてやれヨ」
「そうですよ、アレじゃ僕達も気が散って仕方ないんですけど」

困惑気味に苦言を呈する二人の声にも、知らぬ存ぜぬ銀時だった。
ここまで気付く“きっかけ”をこじらせると、引っ込みがつかない。

あやめもあやめで、今回ばかりはただただ、息をひそめているばかりだ。自分の放った冷たい一言が、ここまで効果があるとは銀時にも意外だった。

少々、後ろめたくもある。何を意固地になっているのかと自嘲もする。
だが、どうしてもあやめに対して、得も言われぬ怒りがふつふつと湧き起こる。他の女達には、これ程でもないのに。

●○●


この不毛な我慢比べに業を煮やしたのは、どちらが先だっただろうか。

ある夜、居酒屋からしたたか酔って出てきた銀時の背後をクナイが襲った。ドスドスッと足元に埋まる鉄の爪を気にもせず、銀時は大仰に吐息をつく。

「なんだよ、人が気持ちよく酔っ払ってるっつーのに」

振り返らずに銀時はクナイの持ち主に言い放った。

「あら、ようやく気付いてくれたのね、酔いどれ侍さん。禁酒中じゃなかったかしら?」

背後の声には、やや非難がましい色が混じっている。

「生憎、“酒は百薬の長”ってね。体にいいモンをなんでやめる必要がある」
「“過ぎたるは及ばざるが如し”って言うでしょ。体に良くても人様に迷惑かけたら、“百薬の長”も百害あって一利なしよ」
「うまくねーんだよ」

憎まれ口を叩く女に舌打ちしたい気分だった。

「何を怒ってるの?銀さん。私に言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ!」

これだから女はイヤなんだ。ヒステリックなあやめの声にうんざりする。

「俺ァいつもでハッキリ言ってるじゃねーか。ストーカーやめて下さい」
「こっちを向いて。私の顔を正面から見て言ってよ」

やれやれ、と、銀時は気だるい動作でのろりとあやめに向き合った。
目の前の女を見てぎょっとする。あやめは今にも泣き出しそうだった。

「やっと…やっと見てくれた…」
「な、何も泣くことねーだろが」
「銀さんのバカぁぁぁ!!!どうして無視するのよぅぅぅ!!!」
「バカはどっちだ、天下の公道で、おい、ちょ、違うからね、俺なんにもしてないからね、コイツが勝手に泣き出したんだからねっ」

飲み屋街の道中で人の目を気にせず号泣しだしたあやめを前に、銀時は思わず言い訳がましく口走る。

通り過ぎる酔っ払いどもに、にーちゃん、女を泣かしちゃいけーねーなァ、よっ色男!などと囃し立てられ、慌ててあやめの腕を取り、路地裏へ引きずって行く。ヒューヒュー♪と、そんな二人をひやかす口笛と、あやめの泣き声が不協和音となって鼓膜に響いた。

「おいおい、勘弁してくれよ。俺が泣かしたみたいじゃねェか!」
「だって…だって…銀さん、怒ってるんだもん」
「怒ってねーよ」
「怒ってるもん」
「怒ってねーって言ってんだろが!!!」
「うわあああああんんんん!!!」

あーもーうるせェェェ!!!と、銀時は両耳を塞いだ。

「この間のドッキリを怒っているの?」

あやめが核心に迫る。
「この間のドッキリ」とは、銀時の不祥事の件だ。

忘年会で酒に呑まれた銀時が店で大暴れをし、損害金を居合わせた者が負担させられた。そんな銀時を懲らしめるため、お登勢が一計を案じる。

服部全蔵がうまく口車に乗せ、銀時は忘年会に参加した女達と長谷川の六人に関係したと思い込み、六股をかけた同棲生活が始まった。

女五人と男一人を手籠めにしたと悔やむ銀時は仕掛け人達にいいように騙され、結局ドッキリというオチで笑い者になったのである。

あやめは、それについて怒っているのかと詰問しているのだった。

「べつに…怒ってねーし」
「うそ!じゃあどうしてあんなに冷たいこと言うの!?」
「冷たくねーよ、俺はおまえのダーリンでもなんでもねーだろが!」
「ダーリンだもん!」
「はぁ!?それオマエの妄想ダーリンですか!?」
「ダーリンだったじゃない!同棲までした仲じゃない!」
「長谷川さんみたいなこと言ってんじゃねーよ!大体、同棲自体がドッキリだろ!?俺は本気でどーしようかって悩んだのによ、まさかお前まで俺を騙して…」

言いかけて銀時はハっと口ごもる。

そうだ。そうなのだ。
まさか、さっちゃんまで俺を騙すとは。

普段、鬱陶しいほどに纏わりつき、銀さん銀さんと連呼するあやめが、よもや自分を謀る側の女達の中にいたことが、許せなかった。

身勝手な言い草だとわかっている。あやめの気持ちに応えた訳でもないのに。けれどもあの時、ドッキリだとわかった瞬間、他の女はいざ知らず、あやめには「裏切られた」と感じずにはいられなかった。

俺はこんなに女々しい奴だったのかと、銀時は愕然とする。
今初めて、あやめに対する正体の見えなかった怒りを自覚した。

俺を好きだと言う口で 騙す女が憎らしい

とどのつまりは、そういうことか。
銀時は自嘲にも似た苦笑いを噛みしめる。

「ごめんなさい…」

目の前のあやめは項垂れながら呟いた。

「銀さんを騙したことは悪かったわ…。本当にごめんなさい。銀さんは怒っているかも知れないけど、私は楽しかったの、少しの間でも銀さんと一緒に暮らせて、とてもとても幸せだったの…」

でも、騙したことには変わりはないわね、と、あやめはすすり泣く。

そうだろうな、と、銀時はあやめのつむじを見下ろしながら反芻した。
コイツは始終、楽しそうだった。
束の間の夫婦ごっこの日々は、幸せそうに見えた。
少なくとも、騙している気はなかったのだろうと銀時は推しはかる。

おそらく、お登勢や全蔵から銀時との“同棲”で釣られたのは言わずもがな。他の四人の女達が揃って銀時と仮初めでも「夫婦」を演じると聞いたあやめが、計略に乗らないワケがない。

あやめの銀時への恋慕は周知の沙汰だ。それをうまく利用されたのだと、冷静に考えればわかるはずだった。

わかるはずだったのに、こんなに腹立たしいのはなぜなのか。
この女に限ってだけ。

「もういいよ」

ひっくひっくと嗚咽を繰り返すあやめに、銀時はぶっきら棒に言った。

「もう怒ってねーから」
「銀さん…」
「だから泣くな」
「銀さぁん!」

叫ぶなり、あやめは銀時にしがみついて来た。狭い路地裏で身動きも取れずに、やむを得ず銀時はあやめの身体を受け止める。

「ちょ、おま、鼻水っ鼻水つけんなっ!オイ、俺はお前のパトリオットじゃねーんだよ!」
「フレーフレー工ちゃあん…!」
「応援されても生産ライン止まってるからね?…って何の話ィ!?」
「『さっちゃんとパトリオット工場長』、略して『さっパト』の話よ」
「お前、泣くなら泣く、ボケるならボケるのどっちかにしろや!!!」

銀時はすがりつくあやめの両肩をつかんで、ゆさゆさと揺さぶった。
泣きはらした目のあやめと、図らずも密着した空間で向かい合う。
涙のせいか、あやめの双眸にネオンの光が反射し、潤んで見える。

「銀さん…キス、して」
「は?」
「仲直りのキス、して」
「あのな、」
「して」

いつになく真剣な声のあやめに、銀時はしばしたじろぐ。

「好きよ…銀さん、大好き…」
「……」
「キスして…」

顔を上げたあやめが、涙でしっとりと湿った睫毛を、そっと伏せた。
女の言う通りにすれば、心に燻った正体不明の怒りも和らぐだろうか。

そういえば、誰かが言っていた。
泣く女を黙らせるには、甘いもので口を塞げと。

あやめの両肩をつかんだ銀時の指に、力がこもる。
そっと引き寄せると、女のふくよかな胸が、男の鍛えられた胸板に押し当たる。
銀時はあやめに向かって顔を傾けた。
唇が触れるか触れないかのところで、喉の奥に突き上げるものを感じた。


「オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛」
「キャアアアア!!銀さァァァんんん!!!」

うぼろろろ、と、聞くに堪えない水音と共に“何か”がリバースされた。
その間、銀時は自分の背中をさするあやめの手の感触に促されながら、やはりしばらくは酒を断とうと心に誓うのだった。

この夜、銀時とあやめは、文字通りの「クサい仲」となったのである。
うまくねーよ。

-了-

【あとがき的なもの】

六股篇を読了後、私の中でモヤモヤ?っとしたモノがあり。
それをこのSSで消化させてみました。勝手な解釈ですが。

また、当ブログの右上にも告知しているのですが。
「銀さちアンソロジー」企画に、不肖、ワタクシも小説で参加予定。
その肩慣らしの意味も含め、書いてみました、銀さち。
「銀さちぃぃぃ!?」と思われた方も多数であろう、ぬるいデキですが。

「なんだよさっちゃん、なんでだよ」
と、モンモンとする銀さんを書けてとても楽しかったですv
最後まで読んで下さった方々に、愛をこめて。
生駒あさよ

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